ハチャメチャ、これもまた｢横溝らしさ｣の一つ
「霧の夜の出来事」（横溝正史）
（「横溝正史探偵小説選Ⅰ」）論創社
自殺を決意した喬二は、
薬局で購入した
青酸加里を飲むが、
一向に死なない。
どうやら薬剤師の娘が
薬品を間違えたらしい。
飛込自殺に続き
入水自殺にも失敗した彼は、
川岸で偶然、
薬剤師の娘と再会する。
娘も自殺を考えていた…。
横溝作品でタイトルが
｢霧の夜の出来事｣となると、
夜霧に乗じて連続殺人事件が起き、
帝都の住民を震撼させるような
イメージがどうしても
浮かんでくるのですが、
本作品はコメディです。
しかもハチャメチャな展開の。
本作品のハチャメチャさ①
自殺する予定が他人を救ってしまう
自殺するつもりだったのが三度失敗し、
彼は死に神に愛想を疲れたのだと
諦めます。
そして薬剤師の娘･早苗の自殺を
食い止めるために奔走します。
なんと人のいい青年･喬二。
そして早苗が死のうと思ったのは、
喬二に渡すはずの青酸加里を、
乳児用の薬と間違えて
他の夫人に渡してしまったからでした。
なんとそそっかしい娘･早苗。
夫人が赤ん坊に服用させる前に
止めようと、二人は奔走します。
そこからハチャメチャな展開が
続きます。
本作品のハチャメチャさ②
見ず知らずの赤ん坊を抱えた逃走劇
二人が夫人宅を訪問すると、
運良く薬は服用前。
しかしなぜか赤ん坊を
受け渡される二人。
赤ん坊をどうするか？
間違えて精神病院を訪れた二人は、
患者と勘違いされ、
強制的に入院させられそうになります。
間一髪の逃走劇。
そこからさらにハチャメチャな展開が
続きます。
本作品のハチャメチャさ③
予想通り予定調和的に結ばれる二人
赤ん坊も青酸加里も
喬二の自殺の原因となった一件も
すっかり解決し、
読み手の予想通り二人は結ばれます。
それでいいのです。
喜劇はいつでも
予定調和的なハッピー･エンドを
迎えるのが当然ですから。
おどろおどろしい金田一ものからは
想像できない明るさの
横溝幻の一品です。
ただしこうした作風は、
｢恐ろしき四月馬鹿｣や
｢山名耕作の不思議な生活｣に収録された
初期作品にはいくつか見られます。
これもまた
｢横溝らしさ｣の一つなのです。
本作品は2006年に横溝正史の旧宅の
物置から見つかった
5000枚に及ぶ生原稿に含まれていた
一作であり、
本書が初収録となります。
そうした横溝の幻の作品を集めた
論創社の｢横溝正史探偵小説選｣全5巻。
よほどの横溝ファンでなければ
手の出ない本なのですが、
我慢しきれず買ってしまいました。
※本作品はロバート･マギル作の
｢赤ん坊とベイクド･ポテト｣を
翻訳(翻案)した作品であると
いうことのようです。
〔本書収録作品一覧〕
霧の夜の出来事
ルパン大盗伝
海底水晶宮
恐ろしきエイプリル･フール
化学教室の怪火
卵と結婚
十二時前後
橋場仙吉の結婚
恐ろしき馬券
悲しき暗号
宝玉的道話集
お尻を叩く話
首を抜く話
博士昇天
足の裏-共犯野原達男の告白
五つの踊り子
妻は売れッ児-甘辛夫婦喧嘩抄
黄色い手袋
五万円の万年筆
ドラ吉の新商売
コント･むつごと集
陽気な夢遊病者
堀見先生の推理
榧の木の恐怖
評論･随筆･読物篇(44篇)
（2020.5.17）
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